注目キーワード
  1. Book
  2. Life
  3. Hobby

住野よる『青くて痛くて脆い』感想ネタバレ、彼女がついた噓とは?

 

青くて痛くて脆い…。

タイトルからセンシティブな想像を掻き立てますね~。こういう本は好きです。

フランソワーズ・サガンの「悲しみよこんにちは」を彷彿とさせる感受性を刺激してくれるだろう期待感を抱かずにはいられません。

センスが溢れ出すこういうタイトルの本はつい読みたくなりませんか?

住野よるの代表作は一躍有名になった「君の膵臓をたべたい」です。

この作品は映画化もされ話題になったので知ってる方が多いと思いますが「青くて痛くて脆い」も映画化されたようです。

タイトル通りの痛々しい青春模様を描いた作品となっていて僕自身、共感できる所があり痛いところを突かれている気分になります…。

あらすじ

 主人公は人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学生。

入学して秋好という誰よりもまっすぐに生きていたがそれ故に周囲から浮いている彼女と出会った主人公は彼女から話しかけられ二人で話すようになる。そして彼女の理想と情熱にふれて、二人で秘密結社「モアイ」を結成。

それから三年、あの時、将来の夢を語り合った秋好はもういない…。

そして、主人公の心には彼女のついた噓がトゲのように刺さっていた。

主人公はすでに脱退していたが「モアイ」は大きなサークルへとなっていてかつての理想と情熱はすでにないように見えた。卒業間近となり、ただのリア充のコミュニティーと成り下がったような「モアイ」を変えるべく、かつての理想と情熱を信じて動きだすが…。 

 

感想 以下ネタバレ注意

主人公の楓は”あらゆる自分の行動には相手を不快にさせてしまう可能性がある”という考えから不用意に人に近づきすぎないようにということを生きる上でのテーマとしていました。

そして入学後、出会った秋好は大学の講義での質問で「この世界に暴力はいらないと思います」と質問とも言えないような理想論の主張を堂々と言ってしまうような、まっすぐだけど空気が読めないような浮いた存在です。要するに周りの嘲笑を買いやすいような痛いやつです…。

内向的な彼と外向的な彼女との関係は「君の膵臓をたべたい」に似ている所がある気がしました。あの作品と違うところは、人間関係模様がリアルで残酷な所、彼女が痛い存在として描かれている所、純粋な恋愛小説ではない所、という感じでしょうか。

楓は秋好のことをどう思っていたのか?

作中では主人公は秋好のことを好きという描写はありませんでしたが、彼女と作った「モアイ」という居場所を取り戻そうと奮闘していたことと、彼女のためと善意でやった行動を彼女に否定されて逆ギレするシーンがあったので実は好きだったんじゃないのかなと思いました。なぜなら主人公はあまり感情を表に出さないタイプだし冒頭でも言っていたように人と近づきすぎないというテーマを掲げており人の意見をできるだけ否定しないように生きています。そんな彼が感情を露わにして彼女を否定するということはそれほど本気だったという証拠だと思いました。なのでそれほど彼を本気にさせる彼女と恋愛関係になっていた可能性も無きにしも非ずだったのかなぁと勝手に妄想しています(笑)愛と憎しみは紙一重と言いますしね・・・。

彼女のついた噓とは? 

映画のPVや小説のあらすじにある彼女がついた噓とは何か、映画ではその噓を見破れるかと挑戦的なメッセージをしていますが皆さんは見破れましたか?

最後まで読むと分かりますが、この噓というのは小説では直接これだっていう言葉では語られていないです。(いないはず…)

僕なりに彼女がついた噓を解釈しました。

モアイ」の活動をしていく中でなりたい自分に向かってまっすぐに理想を語っていた秋好に感化され主人公も理想を見るようになっていました。そして周りからは痛いやつだと思われていようが関係なくまっすぐ生きる秋好を徐々に認めていきます。

そして大学生4年の今では「モアイ」は大きなグループに成長しています。しかし、当の秋好はもういないと主人公は感傷的に語り、主人公も「モアイ」を脱退していました。

4年になり就活中だった主人公が内定をもらった際に素直に喜べないというシーンがあります。面接や履歴書に書いた内容は噓ばかりで、自分じゃないを続けて手に入れた内定という結果に、理想を見てきた「モアイ」の意思は無く、今まで生きてきたことが意味の無いものに感じてしまいます。

そして、「噓に、なっちゃったな…」

二人にかけた言葉だった。自分と、秋好の。”p44

という言葉を呟くがこの段階では彼女はもういないということから僕はてっきり彼女は亡くなっていたものとばかり思っていたので、彼女の理想は無念にも彼女が亡くなったことでどうすることもできなくなった悲しい話とばかり思っていました。

しかし、最後まで読むと大きくなった「モアイ」のメンバーに秋好はいました。現実的で上手く世渡りするような生き方をして、周りにも迷惑をかけてしまっている彼女はかつての彼女ではなく、主人公がいないと言っていたのは理想を生きていた彼女がいないということでした。つまり彼女のついた噓とは当初、語った理想の生き方なのかなと思います。亡き彼女の理想を実現する為に頑張る主人公かと思いきや、彼女は生きていて昔の彼女に戻って欲しいという子供じみた結果は確かに青くて痛い…。

最後に…

 僕は彼女は噓をついたというよりも理想に生きていこうとしていたけど、彼女自身の考えや生き方が理想と変わってしまったと感じました。

確かに他人から見れば噓に見えるかもしれませんが、人生長いので、若い内の志や価値観なんて、揺らぎやすくて当然のことじゃないのかなと思います。

ひとつの信念を貫き通すって某忍者アニメの黄色ヘッドさんみたいでカッコイイ生き方ですが簡単なようで難しいものです。仏教でも諸行無常というこの世は絶えず変化し続けるという言葉がありますので変化は悪いことではありません。

しかし、主人公がそれでも彼女の理想に裏切られたと怒りを露わにしたシーンには自分も似たようなことがあったかもなぁと共感していました。勝手に期待して、勝手に失望して、それに対して怒るってよく考えたらとても身勝手だし、よく大人にやられて嫌な思いしてるはずなんですが…。実は自分にも心当たりがあると気付くと共感性羞恥?が最高潮に達します…。

主人公の偉いところは最後に、彼女を傷つけてしまったことに気付いた所ですね。もうそんなことはしないと思い直して、自身も傷付くことに恐れずにちゃんと向き合って生きていくようになるので良かったなと思いました。

住野よるの作品はバッドエンドのようで前向きに生きるメッセージを込められている気がします。最後の少し爽やかな風が吹いて終わる感じが好きですね。

にしてもこの作品は共感すればするほど、痛い。


にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へ

にほんブログ村

 

最新情報をチェックしよう!