『君の膵臓がたべたい』は住野よるのデビュー作で初めて出版された作品。
「2016年年間ベストセラー単行本フィクション部門 第1位」「本屋大賞2016 第2位」など数々の受賞歴を持っており、「2017年 実写映画化」「2018年 アニメ映画化」 もされています。
破竹の勢いとはまさにこのことです。流行に乗り遅れないように読みましたがもう遅いでしょうか…笑
ちなみにアニメ映画の入場者特典として本編のその後を描いた書き下ろし小説がプレゼントされたらしいです。←欲しい
あらすじ
ある日、主人公である高校生の僕は、病院で一冊の文庫本を拾う。
タイトルは「共病文庫」。
それはクラスメイトである山内桜良が綴った秘密の日記帳だった。
そこには彼女の余命は膵臓の病気によりもう長くないと書かれており、
僕は彼女の余命が短いことを知る唯一のクラスメイトとなった。
真実を知る僕は性格が反対の二人だったが
彼女が死ぬまでにやりたいことに
付き合うことになる・・・
感想。ネタバレあり
以前、恋愛小説を読んで意外と面白かったので恋愛小説の中でも話題の『君の膵臓がたべたい』にも挑戦してみました。
話題作になっただけあり本当に面白く、読み始めたら止まらなかったです。
読み始めていきなり彼女の葬式云々のくだりで亡くなるんだ…と察してタイトルの意味を理解しました。
しかし、読み進めると最後には僕の想像とは違った結末で良い意味で裏切られたなと思います。
主人公である僕に対する呼びかけも人や物語の進行によって変わったりと小説の技法はあまり詳しくないですがテクニックを感じさせる小説でした。
主人公である僕は読書だけが趣味の孤独な少年と病気の彼女は明るく社交的で元気溌剌というまさに対極にいる存在の二人。
作中の彼女は最後まで明るく全然余命を感じさせなかったです。
彼との会話でも余命が短いことをネタに冗談とも本気ともとれるブラックなジョークをしてきたりしてました。
その度に彼は困っているんですが彼のツッコミ&スルースキルが思いのほか高いので彼女と彼のやり取りがなかなか面白かったです。
ゲーム「真実か挑戦」で生きる意味を問う
彼女と彼が旅行へ行き泊まったホテルでゲームの真実か挑戦で彼が彼女へ質問します。
「君にとって、生きるっていうのは、どういうこと?」
彼女は真面目かよとツッコミますがきちんと真剣に答えてくれます。
「きっと誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって呼ぶんだよ」
「誰かを認める、誰かを好きになる、誰かを嫌いになる、誰かと一緒にいて楽しい、誰かと一緒にいたら鬱陶しい、誰かと手を繋ぐ、誰かとハグをする、誰かとすれ違う。それが、生きる。
自分たった一人じゃ、自分がいるって分からない。誰かを好きなのに誰かを嫌いな私、誰かと一緒にいて楽しいのに誰かと一緒にいて鬱陶しいと思う私、そういう人と私の関係が、他の人じゃない、私が生きてるってことだと思う。
私の心があるのは、皆がいるから、私の体があるのは、皆が触ってくれるから。そうして形成された私は、今、生きてる。まだ、ここに生きてる。だから人が生きてることには意味があるんだよ。自分で選んで、君も私も、今ここで生きてるみたいに」p222参照
人と人と関わりや触れ合うことが彼女の生きる定義だとすれば彼女のその性格の明るさに納得します。
確かに人は一人では生きられないですし人との出会いや触れ合いで自己が形成されていきます。よく死んだように生きるとか言いますが、ホントの意味で生きるって行動することで実感できるものなのかもしれませんね。
そしてその生きるとは何かは人によって変わってくると思います。
正解なんてなくて自分で考えるってことが大事なんじゃないかなと思います。
なんて分かったかのようなこと言ってますが絶賛生きてる意味探し中です…。
楽しく生きていければそれでいいのかもしれないかなとも思います。
二人は正反対の性格だけど実はお互い憧れていた
彼女の考え方でいくと彼は人との関わりを最小限にして正反対の生き方をしていますが彼女が亡くなった際に見ることができた彼女の遺書(下書き)には
私は、君に憧れてたの。とあります。
誰かと比べられて、自分を比べて、初めて自分を見つけられる。それが、「私にとっての生きるってこと」。
だけど君は、君だけは、いつも自分自身だった。
君は人との関わりじゃなくて、自分自身を見つめて魅力を作り出していた。
私も、自分だけの魅力を持ちたかった。 p292抜粋
本当に正反対な二人ですが彼女はそんな彼に必要とされたことに対しとても幸せを感じたみたいなことを書いています。
彼は彼女の生き方から多くを学んだようですが彼女もまた彼の生き方から何かを感じとっていたんですね。
恋愛って人を成長させるんでしょうか。
人間力の低い僕にはわかりません。
彼女の遺書の最後には憧れていた彼の爪の垢を煎じて飲みたいと書きましたが、取り消して「君の膵臓がたべたい」という言葉を送っています。
この言葉は彼も同じように考えており彼女の退院予定日にメールでやり取りをしていたのですがそこで私を誉めなさいという流れになります。(ここだけ抜粋するとドSキャラみたいですが単にイチャイチャしてるだけです笑)
すると彼も爪の垢を煎じて飲みたいと打ち込みして、彼女と同じように取り消して「君の膵臓がたべたい」 と送ります。
ロマンスの神様が舞い降りた瞬間ですね~。
しかし残念ながらそこから返信が途絶えてしまいます。
彼女は不幸にも余命で亡くならず通り魔に殺されてしまう最後となってしまいました。
短い余命すら生きられなかった彼女の人生はホントに悲しいです。
彼の気持ちもだいぶ動いたかなってところだったのもありその続きが個人的には見たかったですね。
君の膵臓がたべたい この言葉は彼女の葬式後に彼が確認するとどうやらきちんと彼女へ届いたみたいで彼はそれが分かると泣き崩れますが切なすぎますね。
彼のつもりに積もった感情が溢れ出す描写があり僕も泣きそうになりました。
それにしてもなかなか切ない演出でしたね…。
性格も生き方も正反対な二人が同じことを思うまでにお互いを想うとは…。(韻ふんでみた)
最後に…
タイトルで何かの病気なんだとか死んじゃうんだとか想像し、切なさマックスの小説かと思いましたが想像してたのと少し違いました。
彼女のキャラクターが明るく、ストーリー全体でみると爽やかな印象を感じ、彼女のエネルギッシュさには元気を前向きさには勇気を貰えました。
彼女が亡くなってからも彼が頑張って友達を作り前向きに生きていて何か良いなって思います。
まさかの結末でしたが世の中いつどうなるかなんてわからないという警鐘を鳴らす小説かもしれません。
明日は我が身だと思って毎日を悔いなく生きていこうと思いました。
デビュー作とは思えない完成度だと思うんですが住野よるの作品は今後も注目です。
劇場版もおすすめです。